渡会けいじ『弁天ロックゆう』3巻の感想です。
いよいよ最終巻です。
謎の女の子、杏子は弁天さまに音楽がうまくなりたいと願った女子高生の妹でした。
お姉さんと弁天さまのやりとりは特になかったようです。
この辺りの話があればと期待してたのにちょっと残念です。
ただいずみの成長とか曲を作るさまとか見どころはたくさんあります。
とても満足いく最終巻でした。
音楽で世界は変わらない
いずみは杏子から一緒にバンドしようと誘われます。
レベルの高い杏子のバンドに興味はありますが、
ノリコたちのバンドを優先させてしまいます。
それを聞いたノリコは私に遠慮するなと怒って去ってしまいます。
どうしたらいいかわからないいずみ。
弁天さまは社交性の低いいずみにできることはたかが知れているといいます。
そう、いずみにできることは音楽です。
「この一曲が世界を変えた」という言葉があります。
しかし弁天さまはそうは思っていません。
曲で変わるのは世界ではなくて、人です。
誰もが自分の中に抱える世界を持っています。
モノ作りは作り手が作品に己の意思を込めます。
意思とは自分の世界です。
曲が誰かへ刺激や影響を与えることで人は変わっていくのです。
それはいずみが初めて弁天さまの桜舞う音楽に影響されて、ギタリストになったことと同じなのです。
お姉さんの曲を完成させるには、まずはいずみ自身の世界を築く必要があります
彼女は誰のために、何のために曲を作ったか。
それは親友の為でした。
しかし、それはお姉さんの世界であっていずみの世界でありません。
ではいずみは誰のために、何のために曲を作るのか。
いずみの親友、ノリコのためです。
彼女には笑っていてほしいという、いずみの意思が曲を完成させます。
ふたりでみた世界
幼いころからふたりで過ごしたいずみとノリコ。
人見知りの激しいいずみは、いつもノリコに助けてもらっていました。
しかし、ふたりは別々の高校に行くため離ればなれになってしまいます。
中学卒業まであとわずかです。
ふたりには今までずっと一緒にいた思い出があります。
同じ時間を過ごし、共感しあったいわば世界の共有です。
これから何があるかわかりませんが、この世界を持ち続けていてほしい。
ふたりの世界ではノリコはよく笑っていました。
だからこの気持ちを胸に抱いてずっと笑っていて。
いずみはそういった思いを込めて曲をつくったのかなと思いました。
というわけで弁天ロックゆう最終巻でした。
高校へ入学するいずみのそばにノリコはいません。
それでもいずみは自分の力で音楽を続けていきます。
今までノリコに助けてもらっていた、いずみの成長が伺えます。
また使っていたギターは弁天さまに返します。
弁天さまに頼まれて始めた音楽も、これからは自分の意思で続けるのですね。
個人的ベスト百合本に入るくらいおもしろかったなあと思いました。